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名古屋地方裁判所 昭和39年(行ウ)2号 判決

名古屋市中区東川端町六丁目二十七番地

原告

小林文雄

名古屋市中区南外堀町六の一

被告

名古屋中税務署長 伊藤育

同所

被告

名古屋国税局長 奥村輝之

右両名指定代理人

水野祐一

中川康徳

大山義隆

須藤寛

高田重剛

右当事者間の昭和三九年(行ウ)第二号相続税更正決定取消請求事件について、当裁判所は左のとおり判決する。

主文

被告名古屋中税務署長に対する本件訴を却下する。

原告の被告名古屋国税局長に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告名古屋中税務署長(以下被告署長と称する)が昭和三十七年十一月二十八日なした相続税更正決定(本税総額金二百九十三万八千九百六十円、加算税及び延滞税計金二十四万六千二百七十円)のうち金十二万四百五十円を超える部分を取消す、被告名古屋国税局長(以下被告局長と称する)が昭和三十八年十一月一日なした審査請求却下決定を取消す、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として

(一)  被告署長は原告のなした相続税申告に対し昭和三十七年十一月二十八日請求の趣旨記載の相続税更正決定をなしたので、原告は同年十二月二十日異議申立をなし、更に昭和三十八年三月十二日再異議申立書を提出して之を補充したのであるが、被告署長は同年三月十六日異議申立棄却決定をなした。

(二)  そこで、原告は同年五月二十四日被告局長に対し審査請求をなしたところ、同被告は同年十一月一日「被告署長の異議申立決定書が原告に到達したのが昭和三十八年三月二十日であることは原告も認めるところであり、また審査請求書が提出されたのは同年五月二十四日である。従つて原告の審査請求は、原告が異議申立決定書を受領してから一月を経過してなされたものであるから、国税通則法第七十九条第三項の規定に違背し不適法である。よつて請求を却下する」旨の却下決定をなした。

(三)  しかしながら、被告署長のなした右更正決定は違法であるから、取消されるべきものである。

(四)  被告局長のなした却下決定も違法であるから取消されるべきものである。即ち原告は原告署長のなした異議申立棄却決定の送達をうけたのであるが、該決定には原告のなした再異議申立書の件に対してはなんらの表示もなかつたので、原告は被告署長に右再異議申立書を理由ありと認めて審理を開始したので、右異議申立棄却決定をなしたものと解釈し、審査請求期間を徒過したおいてものであるが、該事情は行政不服審査法第十四条第一項ただし書に所謂「天災その他審査請求をしなかつたことについてやむをえない理由があるとき」に該当するから、被告局長のなした却下決定は違法である。

と陳述し、

立証として、甲第一ないし第十一号証を提出し、乙第一号証の成立を認めた。

被告等指定代理人は「原告の被告等に対する請求を却下する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として

(一)  原告は昭和三十八年三月二十日被告署長のなした異議申立棄却決定書の送達をうけたのであるが、審査請求期間の一月を経過した同年五月二十四日になつて被告局長に対し審査請求をなしたため、その請求を却下されたのである。

従つて、本件課税処分取消訴訟は適法な不服審査の前置を経ていないものであり、国税通則法第八十七条の規定に反し違法であるから、被告署長に対する本件訴は却下を免れない。

(二)  原告は本訴において、被告署長のなした決定処分の取消を求めると同時に、右処分について被告局長のなした裁決の取消を求めているが、その請求原因は両者を通じて同一であり、裁決の取消請求についても原処分の違法を理由としている。右は行政事件訴訟法第十条第二項に反するものであるから、被告局長に対する本訴請求は被告適格を欠く不適法なものである。

(三)  原告は再異議申立書に対する決定を待つていたため審査請求がおくれたと主張しているが、右再異議申立書の記載によつても之が独立した異議申立であるとはとうてい解し得ないのみならず、一つの行政処分に対しそれぞれ独立した名称を付した異議申立が二つ以上なされたとしても、これは最初に提出した異議申立についての補足とみるべきであり、本件について異議申立に対する決定は昭和三十八年三月十六日の異議申立棄却決定をもつて完了しているものというべきである。

そして、原告主張のような理由をもつてしては行政不服審査法第十四条第一項ただし書に該当しないこと勿論であるから、原告の被告局長に対する請求は理由がない。

と陳述し、

立証として、乙第一号証を提出し、甲第一号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める、と述べた。

理由

成立に争いがない甲第四号証、同甲第六ないし第九号証、同乙第一号証によれば、原告は昭和三十七年十二月二十日被告署長が同年十一月二十八日なした原告主張のような相続税更正決定に対し異議申立をなし、更に昭和三十八年三月十二日再異議申立書を提出して之を補充したこと、被告署長は同年三月十六日異議申立棄却決定をなし、該決定が同年三月二十日原告に送達されたこと、原告が同年五月二十四日被告局長に対し審査請求をなしたところ、被告局長は同年十一月一日原告主張のとおりの却下決定をなしたことが認められる。

被告局長は同被告に対する原告の本訴請求は被告適格を欠く不適法なものである旨主張する。

しかしながら、行政事件訴訟法第十条第二項は原処分を正当として審査請求を棄却した裁決の取消の訴においては、原処分の違法を理由としてはその取消しを求めることができない旨を規定したものと解すべきところ、本訴は被告局長のなした審査請求却下決定の取消を求めるものであるから、該規定は本訴に適用のないことが明らかである。

ところで、本件審査請求が国税通則法第七十九条所定の期間経過後になされたものであることは、前記のとおりであり、原告主張のような事情をもつては未だ行政不服審査法第十四条第一項ただし書の事由に該当しないことが明らかであるから、被告局長のなした審査請求却下決定は正当なものと言わなければならない。

そして、本件のように被告局長が審査請求を期間経過後の不適法な請求として却下した場合においては、その却下決定が正当である以上訴訟をもつてしても被告署長のなした原決定の当否を争うことは許されないものと解すべきである。

よつて、被告署長に対する本件訴は不適法であるから之を却下し被告局長に対する本訴請求は理由がないから之を棄却することとし、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武)

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